横溝正史エンサイクロペディア・『八つ墓村』完結篇前半部分の削除箇所
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『八つ墓村』の削除箇所  - 完結篇前半部分 -

横溝正史自選集(3) The Author's Self-Selected Masterpieces Vol.3『八つ墓村』(出版芸術社, 2007/3)の巻末解説(浜田知明)に、気になる記述がある。

完結篇の前半部分(※1)は、収録書(※2)の総頁数の関係からか、相当に文章が削られており、文意がうまくつながらない箇所さえあるので、本選集では、重複部分を除き、削られた箇所を大幅に復元した。

 ※1:完結篇「危険を孕んで」〜「狐の穴にて」
 ※2:講談社・傑作長篇小説全集5『横溝正史集』, 1951(昭和26)年5月

現行角川文庫版をチェックしたところ、完結篇前半部分(「危険を孕んで」〜「狐の穴にて」)において、解説の指摘と同様に、初出からの削除箇所があることが分かった。つまり、初出に最も近い刊本=出版芸術社版『八つ墓村』ということになる。紙版は品切れ・絶版だが、Kindle版(電子書籍)で読むことができるようでだ。ちなみに、削除箇所は以下の通りである。

凡例:改稿箇所前後 削除箇所 加筆箇所

[危機を孕んで]
[よ5-1:p.336-3L]
…思い浮かべることができるが、それはまるで悪夢のような光景だった。
「鬼火の淵」は……

[よ5-1:p.337-17L]
 金田一耕助は帽子の裏をさぐっているうちに、汗皮の裏から…

[よ5-1:p.340-1L]
…後者は自分のために……。
 だから、最後に金田一耕助に、
「達也さん、それで全部でしょうね。もう何もかくしていることはないでしょうね」
 と、念を押されたときは、思わず顔をあからめずにはいられなかった。
しかし、金田一耕助は…

[よ5-1:p.340-11L]
…小竹様ときたら、小梅様がいきているあいだは、相当強い存在として、立派にこの家を支配していたのに、相棒がなくなると、いっぺんにその存在がしぼんでしまったのだ。生きているというのは形ばかり、まるで他愛が亡くなってしまったのだ。
 よく小説などに、…

[よ5-1:p.336-3L]
…赤ん坊よりも他愛がなくなったのだ。双生児はやはり双生児であった。かれらは二人によって、はじめて一人前の機能を営んでいたのだ。だからその一方は死んだとたん、他の一方が生ける屍になってしまったのも無理はない。
 小竹様がそんなふうな…

[よ5-1:p.341-2L]
…悔みにも来ぬ。ないことである。小梅様の死が、…

[よ5-1:p.341-16L]
…元気なのだろうか。愼太郎は如才なく、姉にお悔やみを言ったり本卦がえりをしてしまった小竹様を慰めたりしていた。
「ええ、でも、ついいましがたまで、森さんがいてくれたものだから……」
 これは私がわざといったのである。私はそういって慎太郎の顔色を注視していた。慎太郎はそのとき、たしかにピクリと、太い眉をふるわせたが、わざと私には返事をせず、義姉にお悔やみをいったり、小竹様を慰めたりしていた。しかし、かえってそのことが、慎太郎がいまだにある種の感情を、美也子に対して抱いていることをしめしているのだと思わせた。

「遅くなってすみません…

[母の恋文]
[よ5-1:p.345-7L]
…その日のうちのことである。
 一行は数班にわかれ、それぞれお巡りさんや私服の指揮のもとに、手分けして洞窟のなかへもぐりこむことになったが、何しろ八つ墓村の鍾乳洞は数も多く、面積も広く、またその形状も複雑多岐にわたっているので、これを隅から隅まで捜索するとなると、実際、容易なことではなかった。
 この洞窟狩りで…

[よ5-1:p.346-2L]
…務めるだけは努めてくれた。
 この村ではいま、お坊さんといえば、英泉さんよりほかにいないのだ。蓮光寺の洪禅さんは殺されたし、麻呂尾寺のお住持の長英さんは老病で寝たきりなのである。だからもし、英泉さんがあのまま警察へひっぱられてしまったら、小梅様のお葬いはどうなることかと案じていたが、これでやっと安心した。
 お弔いはその翌日…

[よ5-1:p.349-17L]
…あなたも御存じでしょう。いきあたりばったり何でも持ってく。役に立っても立たなくても、そんなことは一切お構いなし。盗むこと自体が趣味なんですね。久野先生の折りカバン…

[よ5-1:p.351-18L]
…どうしてもわからなかった。ひょっとすると、ちかっごろしげしげ、愼太郎が出入りをするので、それを憚っているのかとも思われたが、何もそのことで、私にまで冷たくする必要はあるまい。四面楚歌のこの村で…

[よ5-1:p.352-4L]
…聞いたわけではなかったらしく、それからまもなく、
「森さんが来たら、ぼくがよろしくいっていたと伝えてください。はっはっは!」
 何がはっはっはか知らないけれど、金田一耕助はそう言いのこして
飄々とっして…

[狐の穴にて]
[よ5-1:p.357-3L]
「それで、その投書には…

[よ5-1:p.358-13L]
…間もなくのことである。
 そのとき私が鍾乳洞の入り口として、警部や金田一耕助を案内したのは、あの離れの長持ではなく、裏の祠だった。この祠について、姉の春代はいつか、こんなふうにいって説明してくれたことがある。
「あれは持仏堂ではなくてお社なの。表向きはお稲荷様ということになっていますが、ほんとうはずっと昔、この村のひとたちに殺された尼子の大将――そのひとを祀ってあって、御神体の鎧というのも、その大将のものだとか聞いております」
 その鎧がいま、猿の腰掛で屍蝋の鎧となっていることはまえにもいった。
 ところで、その祠が抜け穴の一方の出口になっているのである。つまり離れの長持へ入った人はその祠へ抜けられるようになっていたのだが、それがいつか、あの天然の鍾乳洞に結びついて、とてつもない大規模な抜け穴になってしまったわけだ。
 さて、この祠から入って、地下の階段をおりていくと、その麓にあの動く岩がある。この岩をくぐらないで、そこにある横穴をつたってゆくと、やがて離れへのぼる階段にぶつかるわけだ。
 私たちはその動く岩をくぐった。それからふたまたを通り、「猿の腰掛」を過ぎ、「天狗の鼻」から「木霊の辻」へさしかかった。
今日は刑事もつれず…

角川文庫による、『八つ墓村』の完結篇前半部分(「危険を孕んで」〜「狐の穴にて」)の削除箇所復活を期待しているのは、私だけではあるまい。

関連ページ:
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 (188) 横溝正史自選集(3)『八つ墓村』(出版芸術社)刊行
 (157) 蜂巣敦『「八つ墓村」は実在する』 (ミリオン出版)刊行


ひとりでチェックしたものであり、遺漏・欠落は多々あると思います。
(ただし、誤植, 漢字⇔漢字/かな/カナなどは、改稿対象外としました)
ぜひご指摘箇所をお知らせください。

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