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2025年1月25日付で、谷崎潤一郎『金と銀』が春陽文庫・探偵小説篇の一冊として刊行された。帯裏に、横溝正史エッセイの抜粋が記されている。
現在探偵作家と呼ばれているひとびとのうち、戦前派に属する作家たちの大部分が、いろいろな意味で谷崎先生の文学の影響を、ひじょうに大きくうけていることは否定できないようだが、とりわけわたしはそれがひどいようである。
では、谷崎先生の文学のどういうところがわれわれにとって魅力なのか。それはおよそ非現実的なケースを、巧妙に現実化して描出される、その魔術師ともいうべき手腕と霊筆である。
横溝正史(「谷崎先生と日本探偵小説」より)
文庫巻末の日下三蔵「『金と銀』覚え書き」にこのエッセイの所在が記されている。
「谷崎先生と日本探偵小説」は横溝正史の第一エッセイ集『探偵小説五十年』(72年9月/講談社)に収められ、現在は柏書房の《横溝正史エッセイコレクション》第一巻『探偵小説五十年 探偵小説昔話』(2022年6月)で読むことが出来る。
ちなみに、日本推理作家協会編『マイ・ベスト・ミステリー VI』(文春文庫, '07/12, 親本:『推理作家になりたくて 第6巻 謎 マイベストミステリー』'04/4)に、横溝正史「神楽太夫」(初出「週刊河北」1946/3)と合わせ、「最も好きな他人の短編」として
谷崎潤一郎「秘密」と、横溝正史の短文「谷崎先生と日本探偵小説」(『谷崎潤一郎全集 第十巻』月報付録,1959/5)も収録されています。
横溝正史はこのエッセイの中で、じっさい「金と銀」「途上」「秘密」「白昼鬼語」などが日本の探偵小説壇に与えた影響は大きいと述べている。だがそれは、横溝正史作品にもその影響を垣間見ることができるようである。
内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』(講談社選書メチエ, 2017/7)に、次の記述がある。
谷崎潤一郎の場合、「秘密」(1911)、「前科者」「白昼鬼語」「金と銀」(二人の芸術家の話)「柳湯の事件」(1918)、「呪はれた戯曲」「ある少年の怯え」(1919)、「途上」(1920)、「私」「AとBの話」「或る調書の一節」(1921)、「或る罪の動機」(1922)など、いずれも探偵趣味に充ちた作品を書き続けていた。
横溝正史の戦前期の代表作「鬼火」(1935)も、物語の構図という点では、谷崎の「金と銀」(『黒潮』1918/5、その後篇「二人の芸術家の話」は『中央公論』1918/7)を発想の下敷きにしている。正史の「鬼火」は従兄弟どうしで酷似した二人の芸術家の話であり、谷崎の「金と銀」とおなじく、互いに相似形をなす人物をめぐる不安な〈双数〉(double)の現象を扱っている。
谷崎潤一郎「金と銀」を手引きとして、横溝正史「鬼火」を読み進めてみることにしたい。
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