横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 5-07 | ○金田一春彦と、金田一耕助は同い年！ |
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二〇二二年は、横溝正史生誕百二十年。ということは、 横溝正史の生みだしたもじゃもじゃ頭の名探偵・金田一 耕助は、設定の上では百九歳を迎えたことになる。金田 一耕助の年齢特定については、第五章「寡黙なるエピソ ードたち」にその根拠を示したが、要約すると、横溝正 史より十一歳年下の一九一三（大正二）年生まれとなる ということ。「同姓の有名なアイヌ学者と同じ地方の出 らしい」と、「本陣殺人事件」に記されており、そのア イヌ学者・金田一京助は、岩手県盛岡市出身。その長男 に、国語学者・金田一春彦がいる。 朝日新聞二〇〇三年五月十六日夕刊記事、「風韻 原 稿なんか書くのも楽しい 国語学者 金田一春彦さん」 によれば、金田一春彦は、この年の四月に九十歳の誕生 日を迎えられたとのこと（大正二年四月三日東京都文京 区生まれ）。そうすると、横溝正史より十一歳年下とい うことになる。つまり、金田一春彦は金田一耕助と同い 年になるということに、この記事で初めて気づいた次第。 これも、何かの縁・巡り合わせなのかも知れない。この 記事には、金田一耕助関連の興味深い記述がある。 「キンダイチ」という名字は珍しいでしょう？ 名 前には苦労しました。アイヌ語で「山の中の町」とい う意味なんだそうです。親父（京助）は岩手県の山奥 の出身ですから。地元ではキンダイチなんて、のんび り言いません。「キダチ」というふうに聞こえる。気 の利いた人は「キダチ」に改名して青森県などに多 いんですが、親父は頑として変えようとしなかった。 「金田一」が貴いんだ、と。親父が死んだら変えてや ろうと思いましたけど、それも親不孝のようで。 探偵の金田一耕助？ そう、あるとき横溝正史さん に済まながられましてね。「お父さんをむやみに拝借 して申し訳ない」と。いやいや、悪者の名前ならこん なのんきにしてられませんけど、探偵なんですからあ りがたい、と申し上げたことがあります。 この新聞記事の二日後、筆者はアメリカ・サンディエ ゴへ三週間ほど出張したことがある。「病院坂の首縊り の家」事件後、金田一耕助が行方が分からなくなったと されるロサンゼルスを経由して。横溝正史生誕百一周年 を、アメリカ西海岸南端・サンディエゴで迎えた。 「病院坂の首縊りの家」物語の終わりには、次の記述 があるので、ロサンゼルス到着時は感慨深いものがあっ た。 金田一耕助氏がロスまで飛んだことはたしかなよう だ。ロスにはそうとうかれの識り合いがいるはずであ る。しかし、そのどこへも立ち寄っていなかった。あ の広大なアメリカの天地のどこかへ金田一耕助氏は消 えてしまったとしか、いまのところいいようがない。 ロスまでの足取りは確認できたが、その先は行方知れ ず。そこで発想を飛躍させ、金田一耕助はサンディエゴ へ赴き、その地からメキシコ国境を歩いて越え、蒸発し た可能性もあるかなと、メキシコ側へ渡る橋を歩きなが ら考えるに至った。サンディエゴからメキシコ・ティフ ァナへは、歩いて簡単に国境を渡ることができ、現在で は観光地になっている。「アミーゴ！」の国に金田一耕 助が渡ったとして、彼は何に思いを馳せたことだろうか。 想像するのもまた愉しである。 その翌年、二〇〇四年五月十九日のこと、金田一春彦 が鬼籍には入られたというニュースに、筆者は愕然とな った。翌日、その訃報関連記事を図書館でチェックした ことを、今も鮮明に覚えている。「産経新聞」の訃報記 事に、金田一耕助と同い年だったことまで言及されてい たことに、当時は驚かされた。「産経新聞」二〇〇四年 五月二十日朝刊「金田一春彦氏 死去 国語学者 方言研 究や辞書編纂 91歳」の訃報記事と合わせ、「唱歌に平 曲…多方面で活躍」の小見出し記事があり、その文末。 （略）ちなみに金田一さんは、横溝正史が父、京助 にヒントを得て生み出した名探偵、金田一耕助と同い 年だった。 「悪魔が来りて笛を吹く」で、「ぼくと同姓の言語学 者に聞いた」として推理を展開する金田一耕助について、 金田一春彦は、「私はまだ金田一耕助君にお会いしたこ とはないが、向うで親友と思ってくださるのなら光栄だ と思っています」と、「日本人の心と言葉 (1)」（「国 民」昭和五十八年二月／社会教育協会）で語っている。 筆者にとって金田一春彦といえば、岩波新書版『日本 語』（当時は一冊だったが、現在は新版となり上下二冊）。 大学の一般教養「文学」の授業の副読本として読んだ、 学生時代が懐かしく走馬灯のように、今でも思い出され る。 国語学者の金田一先生は鬼籍に入られたが、探偵の方 の金田一先生は、いつまでも私たちの傍にいる。そう、 横溝正史が記した事件簿の中で今日も活躍している。 |
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