横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 5-02 | ○「南海囚人塔」の二つの誤謬 |
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二〇二一年六月から十二月にかけて、柏書房より「横 溝正史少年小説コレクション」全七巻が刊行された。 その第七巻に「南海囚人塔」がラインナップされた。 「南海囚人塔」は「少年少女譚海」へ連載されたまま 単行本未収録となっていた横溝正史ジュヴナイル作品で あり、これまで本作を読むためには発表誌を当たるしか その術がなかった。 その横溝正史文学のミッシングピースの一篇「南海囚 人塔」が、雑誌発表から九十年を経て刊本に初収録は偉 業と言えよう。後述する「中島リスト」「島崎リスト」 に、「南海囚人島」なる作品名を発見した当時、私はま だ中学生だった。刊本を手にしたときは、「いつかは読 みたい」という強い願いを、持ち続けていてよかったと 思う次第。喜びも感慨一入である。ありがたい。 筆者が、横溝正史書誌調査の拠り所としている文献は、 次の刊本に収録されており、敬意を込めて「中島リスト」 「島崎リスト」と、個人的に呼称している。今なおこの 両リストは、横溝正史書誌調査の羅針盤となっており、 これからもそうあり続けることだろう。 ・『新版横溝正史全集18 探偵小説昔話』 （講談社／一九七五年七月） 中島河太郎 「作品目録」 ( 中島リスト) ・『別冊幻影城 横溝正史』( 絃映社／一九七五年九月) 島崎博 「横溝正史書誌」 ( 島崎リスト) 『『少年少女譚海』目次・解題・索引』（中川裕美・ 解題。金沢文圃閣／二〇一〇年四月）によれば、「南海 囚人塔」は、雑誌『少年少女譚海』一九三一( 昭和六) 年 一月号〜八月号にわたり、 計八回連載されていたことが 判明している。しかしながら、「南海囚人塔」に関し、 一九七五年当時の情報として、中島リスト・島崎リスト とも、次のように記されていたのである。横溝書誌の、 ミスディレクションの一つと言えよう。 ・中島リスト：昭和６年 １ 南海囚人島 （少）（―７） 譚海 ・島崎リスト：昭和６年 南海囚人島 譚海１→７ と記されているが、『『少年少女譚海』目次・解題・ 索引』（中川裕美・解題。金沢文圃閣／二〇一〇年四月） によって、正式なタイトルが「南海囚人塔」で、雑誌 「少年少女譚海」昭和六年一月号から八月号に亘って計 八回連載されていたことが判明した。中島リストや島崎 リストの記述は、横溝書誌におけるミスディレクション の一例と言えよう。 両リストには、タイトルを「南海囚人島」と記載、そ して「少年少女譚海」昭和六年一月号から七月号の連載 （実際よりひと月短い）書誌情報という、「南海囚人塔」 に関する二つの誤謬があった。しかしながら、両リスト は筆者にとって、横溝正史書誌調査には必要不可欠な資 料であり、その偉業には感謝しかない。 |
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