横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 4-25 | ○二つある『死仮面』 |
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二〇二二年五月、角川文庫より『死仮面』が改版初版 として復刊された。 今回復刊された『死仮面』は、巻末に「昭和五十九年 刊行の角川文庫版を復刊」とある通り、中島河太郎によ る補筆版のままである。中島河太郎が解説で「この部分 が発見されたら当然差し替えねばならない」と、記して いるにもかかわらずである。 角川文庫『死仮面』刊行時は見つかっていなかった初 出誌（「物語」昭和二十四年八月号）は発見されており、 一九九八年一月、補筆箇所を横溝正史の原稿に差し替え た『死仮面』が春陽文庫より発売されたが、こちらが今 や絶版状態（二〇二二年九月現在）。 カドカワ・ノベルズ『死仮面』（昭和五十七年一月） の裏表紙（表４）には、次のような「作者のことば」が 記されている。 「死仮面」は、金田一耕助が「八つ墓村」事件を解 決した直後の事件として、昭和二十四年、ある雑誌に 連載した作品である。当時、わたしはなぜかこの作品 を毛嫌いし、本にしなかった。話が陰惨すぎたせいで あろう。三十年経った今、初めて本になるわけで面映 ゆくもあり、又、感慨無量のものがある。 島崎博・編「横溝正史著書目録」（「別冊幻影城 横溝 正史」収録）によれば、「死仮面」は「死假面された女」 として一度が予定されていたそうである。 目録によれば、『新大衆小説全集５ 横溝正史集』 （矢貴書店／昭和二十五年六月）に収録されたことにな っているが、出版不況の年ということもあり、実際は未 刊行だったようである。 絶版本も含めれば、補筆版（角川文庫）と完全版（春 陽文庫）、二種類の『死仮面』が流布したことになる。 自身の代筆について、中島河太郎は角川文庫『死仮 面』（昭和五十九年七月）解説において、 （筆者註・雑誌「物語」の昭和）二十四年の五月から 十二月まで、八回にわたっての連載で、ちゃんと完結 しているのだが、あいにく第四回の載った八月号が欠 けている。（中略）そこで第四回にあたる章を私が補 うことになった。「妖婆の悲憤」と「校長の惨死」は、 私の筆によるものである。他日、この部分が発見され たら当然差し替えねばならない。作品を傷つけるので はないかと私自身にとっても不本意だが、いまは宥し を乞うほかはない。この原版の見本刷はようやく著者 の告別式に届けられたから、私の不遜な補稿はとうと う目を通されなかった。 と、書いている。 中島河太郎による補筆箇所は、春陽文庫版の「妖婆」 と「灯の漏れる窓」に相当する。 改版扱いの復刊ということで、角川文庫版『死仮面』 は補筆版のままなのだろうが、該当部分を差し替えたう え、中島河太郎による補筆箇所を参考資料として収録な ど、臨機応変に対応してほしいと思ったのは、筆者だけ ではないだろう。 カドカワ・ノベルズから、「死仮面」が初めて単行本 される際、「中部日本新聞」や「東京新聞」に、「死仮 面」欠落部分の探索を呼びかける記事を掲載するほどだ ったのだから。また、中島河太郎は、 はじめこの作品を発掘した折り、著者は「悪霊島」 の稿を練っておられたが、その合間を縫って「死仮 面」を全面的に改稿されるつもりだった。（中略）と にかく著者はあらためて筆写し、訂正用の原稿を用意 しておられた。 と、欠落部分の補筆も含めた全面改稿が準備中である ことを紹介しており、「金田一耕助入門」（「名探偵読 本８ 金田一耕助」収録）でも、 横溝正史は今年喜寿を迎えられたが、目下『悪霊島』 を執筆中だし、その後に『女の墓を洗え』『千社札殺 人事件』が予定されている。それに未刊の『死仮面』 も稿を改めるつもりで準備中である。 と報告している。 「死仮面」がどのように改稿される予定だったのか、 今となっては知る由もないが、中島河太郎の偉業に敬意 を表し、補筆部分は据え置きのままでもよいように思う が、その前提条件として、横溝正史オリジナル版の「死 仮面」も手軽に読むことができる状況にするべきだろう。 |
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