横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 4-18 | ○「八つ墓村」辰弥はいつ神戸へ発ったか |
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「八つ墓村」の時間的プロットを整理してみた。この 作品で描かれた時間は実に三百八十三年に及び、シリー ズ最長である（「女王蜂」の頼朝伝説は除外）。この物 語は、八つ墓村からかえって八か月後に書き記されたと あるものの、今はいつで、この作品の主人公・辰弥はい つ神戸に帰ってきたのかは、作品中の日付に注意してい ても判読困難である。 犯人は伏せたが、日付を特定する事件や犠牲者名を記 していますので、「八つ墓村」読後に、この先をご覧頂 くことをお勧めする。使用テキストは、角川文庫よ５― １『金田一耕助ファイル１ 八つ墓村』（改版／一九九 六年九月）である。 この作品は「辰弥」の視点で記されており、「辰弥」 の言動から年代の特定が可能である。 ・大正×年、すなわちいまから二十数年前のことである （十頁）。 ・こうして二十六年の歳月が流れて、昭和二十×年（十 九頁）。 ・私は二十七歳になる去年まで（二十二頁） ・大正十一年生まれと書いてあるのに戸籍では大正十二 年生まれ（二十四頁） ・今年二十九歳なのだが世間一般には二十八歳（二十四 頁） ・去年、すなわち昭和二十×年五月二十五日（二十六頁） ・辰弥――大正十一年九月六日出生（三十頁） ・二十七歳にして（三十七頁） ・私は今年二十七になります。（四十六頁） ・二十六年まえの大惨事（三十九頁） ・終戦の年からだから、足かけ四年か（五十六頁） ・二十八年まえの大事件の晩（四六一頁） ※二十六年 前のエラー 大正十一年九月六日生まれの辰弥が、「二十七歳にな る去年まで」（数え年）と言っているので、去年は昭和 二十三年となる。このことは、「終戦の年からだから、 足かけ四年か」からも確認できる。よって昭和二十×年 ＝昭和二十三（一九四八）年となる。 また大正×年に発生した「二十六年まえの大惨事」は、 昭和二十三（一九四八）年を起点にすると大正十一（一 九二二）年の事件。としたいところだが、辰哉が生まれ て（大正十一年九月六日）以降の四月下旬のある夜に起 こった事件（十四頁）なので、大正十二年以降となる。 昭和二十三（一九四八）年六月十日に届いた手紙に「二 十六年まえの大惨事」とあるのだから、大正十二年四月 下旬とすると、二十五年と二ヶ月前となる。ぴったり二 十六年前とはならないが、二十六年目ではある。二十六 年まえを考えると、大正十二年が限界と思われる。 それでは、作品中に記された時間を時系列で追ってみ たいと思う。 ・一五六六（永禄九）年七月六日、雲州富田城主尼子義 久が毛利元就に降って月山城を明け渡したとき宗徒の 公達で、この降伏を肯んじなかった若武者一騎、七人 の近習をしたがえて城を落ちのびた。 （六頁） （八つ墓村事件の発端となる出来事である） ・半年あまりの歳月（七頁）の後、村人による落武者八 人の惨殺 ・半年ほど後、落人襲撃の発頭人・田治見庄左衛門宅の 杉の大木に落雷 ・庄左衛門逆上による七人惨殺＋自殺の計八人死亡 ・落人の死骸を埋葬し八つ墓明神として崇め奉る （九〜十頁） ・一九二二（大正十一）年九月六日、辰哉生まれる （三十頁） ・一九二三（大正十二）年、四月下旬のある夜（十四頁） ・田治見要蔵による、村人三十二人殺し ・一九四八（昭和二十三）年 ・五月二十五日（二十六頁）、ラジオの尋ね人の時間 ・辰弥、諏訪法律事務所（神戸市北長狭通三丁目）を訪 問 （二十七〜二十八頁） ・六月十日（諏訪法律事務所へ出向いた日から数えて十 六日目 （三十八頁） ・辰弥、脅迫状を受け取る ・同日井川丑松（母方の祖父）と諏訪法律事務所にて対 面 （四十三頁） ・井川丑松死亡（毒殺） （四十九頁） ・それから十日あまり、森美也子来神 （五十頁） ・六月二十五日、八つ墓村へ向けて三宮駅より出発 （五十八、六十五〜六十六頁） ・田治見家泊 ・六月二十六日、兄・久弥と対面 （一〇六頁） ・田治見久弥死亡（毒殺） （一一二頁） ・六月二十七日、久弥と井川丑松の弔い 二つのお弔いはつつがなく、その翌日の夕方おわった。 （一一六頁） ・金田一耕助と対面 （一一七頁） ・七月二日、久弥初七日（初七日の日） （一三一頁） ・漣光寺の洪禅さん死亡（毒殺） （一四六頁） ・七月三日（今日は七月三日） （一八三頁） ・慶勝院の梅幸尼死亡（毒殺、七月二日夜に死亡） （一八八頁） ・七月四日（昨夜） （二三八頁） ・濃茶の尼（妙漣）死亡（絞殺、七月三日夜に死亡） （二三九頁） ・久野医師行方不明 ・七月十四日（こうして瞬く間に十日という日が過ぎ 去った。 （二七七頁） ・七月十五日（その翌日） （二八四頁） ・小梅伯母さらわれる （二九三頁） ・七月十六日（そうして一晩、夜明けになっても） （三二五頁） ・小梅伯母死亡確認 （三三四頁） ・七月十七日（お弔いはその翌日無事にすんだ） （三四六頁） ・七月十八日（葬式の翌日） （三四六頁） ・七月十九日（こうして寝不足の一夜を明かした私が、 その翌朝 （三五四頁） ・久野医師死亡（毒殺、少なくとも死後二週間） （三六八、三七〇頁） 作品中、年月日を特定できるデータが数多く出てくる のですが、実はこれ以降、春代死亡までの日数の手がか りなし。後半は、日付の仮定を行った。 ・ある日（三七二頁前後に手がかりなしのため、いつか 不明） ・昨夜のうちに（三七二頁「ある日の前日」にあたる） ・それは妙にひっそりと静まり返った休止期間であった （三七一頁） （前後に手がかりなしのため、何日間かは不明） ・七月二十七日（後半一日目）写真を発見した、その夜 （三八二頁） ・七月二十八日（後半二日目）時計は十時二十分二十分、 おそらく一夜明けたのだろう （四〇四頁） ・春代死亡 （四一一頁） ・その日いちにち （四一七頁） ・七月二十九日（後半三日目）その夜も明けてつぎの朝 のこと （四一八頁） ・七月三十日（後半四日目）昨夜のお通夜 （四二三頁） ・七月三十一日（後半五日目）そのつぎの日（四二七頁） ・八月一日（後半六日目）そのつぎの日の正午過ぎ （四三四頁） ・落盤発生 ・八月四日（後半九日目）四日目の朝 （四五六頁） ・八月十一日（後半十六日目） ・それからのち一週間あまり （四五七頁） ・その一週間のあいだに （四五七頁） ・八月二十八、二十九日（後半三十三日目、または三四 日目）するとある日 （四五七頁） ・いつか不明だが、後半十六日目より後で、（警部は） 今岡山へ帰っていますが、二、三日したらやってくる ／警部がきたら一度みんなで集まって（四五八頁）と あって、春代の三十五日の夜（四六六頁）、集会へつ ながるので、春代の三十五日の二、三日前 ・八月三十一日（後半三十六日目）姉の春代の三十五日 の夜（四六六頁）、集会 ・生涯の記念として、この三ヶ月の経験を書きとめてお きますね（二十一頁）。五月二十五日〜三ヶ月とする と、八月末となる。どこまでがこの三ヶ月の経験なの でしょうか。 （１）落盤発生後救出されるまでを八月三十一日とする と、後半一日目は八月十五日（前の事件から約一 ヶ月あく） （２）春代の三十五日の夜の集会を八月三十一日とする と、後半一日目は七月二十七日（前の事件から九 日あく） ちなみに八月二十五日とすると、後半一日目は七月二 十二日となり、文意から不自然。 八月三十一日の前後二日くらいが自然のように思われ るので、ここでは八月三十一日を春代の三十五日と仮定 した。 ・十一月四日（後半百一日目）姉の百か日 ・十一月五日（後半百二日目）神戸へ発つ？ ・私は姉の百か日をすませて神戸へたつことにしていた （四九三頁） ・八つ墓村からかえって八か月二十頁） 十一月上旬＋八か月＝翌年七月（昭和二十四年七月？ ころに手記を書き始めたことになる。ちなみに「八つ 墓村」発表は、「新青年」昭和二十四年三月号〜昭和 二十五年三月号、「宝石」昭和二十五年十一月号〜昭 和二十六年一月号） 項目名「辰弥はいつ神戸へ発ったか」への回答として、 昭和二十三年十一月五日ごろを、挙げたいと思う。 |
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