横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 3-27 | ○「本陣殺人事件」長篇賞の影 |
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双葉文庫『日本推理作家協会賞受賞作全集』の記念す べき第一巻は、横溝正史『本陣殺人事件』（一九九五年 五月）である。残念ながら、この全集文庫では各賞の選 考経緯や選評の類が収録されておらず、選考の様子を窺 い知ることができない。そこで調査をしてみたところ、 以下のようなことが確認できた。 「日本推理作家協会」の前身は「日本探偵作家クラブ」 であり、賞の授与は昭和二十二年度から始まっている。 「探偵作家クラブ会報」第九号（昭和二十三年二月） によれば、第一回受賞作品は次の通り。 ・長篇賞 横溝正史「本陣殺人事件」 ・短篇賞 木々高太郎「新月」 ・新人賞 香山滋「海鰻荘奇談」 当時の「探偵作家クラブ賞」選考経緯は、江戸川乱歩 が「詮衡事情」（「探偵作家クラブ会報」昭和二十三年 二月号）で詳細に記している。 それによると、詮衡委員は、海野十三、江戸川乱歩、 大下宇陀児、木々高太郎、城昌幸、角田喜久雄、西田政 治、森下雨村、水谷準、横溝正史の十名。この当時は、 得点方式だけで受賞作を決定していた。 まず全会員による候補作の推薦投票を行い、次に詮衡 委員による採点により、得点順に作品を並べ、最高得点 の作品を受賞作としている。 ここで注目すべきは、作品本位という点であり、同一 作家の複数作品を許容している点である。〈長篇の部〉 候補四作の内、横溝正史は「本陣殺人事件」と「蝶々殺 人事件」の二作品がノミネートされている。 委員九人の満票をもって、「本陣殺人事件」は推挙さ れている。 ノミネート作品の作者が委員を兼ねているため、本人 作品に自分が投票していなかった場合は、加票されさら に得点もある基準で加点される方式であり、横溝正史本 人が自作に投票したかどうかは不明である。 各委員が、最高百点、最低五十点で採点。「本陣殺人 事件」は七八六点で、次点の角田喜久雄「高木家の惨 劇」の六〇五点に大差をつけ、得票も得点も単独一位。 「蝶々」は二票一三〇点の四位だった。 筆者は、〈短篇の部〉の候補作を見て唸ってしまった。 横溝正史の「探偵小説」がノミネートされ、十八作中 四位に入っていたのである。委員得票数は一位と同じ七 票で、得点差も受賞作と四十六点と僅差であったことが うかがえる。 場合によっては、〈長篇賞〉と〈短篇賞〉のダブル受 賞の可能性があったことに驚かされた。歴史にifはつき ものだが、そうだったら、横溝正史の作家活動はどう展 開していただろうか。 |
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