横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 3-16 | ○川崎七郎「巽甚兵衞の古鞄」の謎 |
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『横溝正史探偵小説コレクション１ 赤い水泳着』 （出版芸術社／二〇〇四年九月）の巻末に収録されてい る「作品リスト」に、川崎七郎名義「桐屋敷の殺人事件」 が、横溝正史の別名義としてリストアップされている。 この作品は「新青年」昭和三年七月号へ掲載され、横 溝正史が「新青年」の編集者ではなくなったためか、未 完のまま中絶してしまった。その後、『日本探偵小説全 集10 横溝正史集』（改造社／昭和四年九月）へ収録さ れる予定だったが、実現に至っていない。 「桐屋敷の殺人事件」発表の約二年後、同じ雑誌「新 青年」昭和五年十一月号に、同じ川崎七郎の名義で「巽 甚兵衞の古鞄」という短編が収録されているのは、あま り知られていないだろう。古鞄を巡る陰謀を描いた（と は大袈裟か？）政治ミステリで、そのストーリーテラー ぶりに横溝テイストが強く感じられる。横溝正史の別名 義か、それとも全くの別人の作なのか。 筆者の運営するウェブサイトで「巽甚兵衞の古鞄」の 記事をアップしたところ、筆者宛に「巽甚兵衞の古鞄」 を書いた川崎七郎は横溝正史ではない旨の、情報提供を 複数いただいた。どれもＡ氏がそう言っていた的なソー スで、横溝正史作品か否かの独自の理由付けはなく、別 人と断定する根拠がイマイチはっきりしない。言い換え れば、単行本未収録作品の別名義判定は難しいというこ との証左でもあるだろう。 本作が掲載された、昭和五年十一月の頃、「新青年」 には横溝正史名義で作品発表があり、川崎七郎名義で発 表する必要があったのか。真偽は闇の中である。 |
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