横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 2-20 | ○「少年探偵長」を書き継ぐ |
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横溝正史を語るうえで、重要な作家は多数いるが、日 本ＳＦの父とも呼ばれる海野十三も、その一人である。 横田順彌は、『海野十三全集別巻２ 日記･書簡･雑 纂』（三一書房／一九九三年一月）の「解題」で、別作 家が海野十三作品を完結したものとして、次の三作品を 挙げている。横溝正史の名も含まれている。 海野が昭和二十四年五月十七日、結核により五十一 歳の若さで没した時、連載中の作品は十作近くあった ようだが、先輩、友人の江戸川乱歩、木々高太郎、横 溝正史らは、なんとか海野の未完作品を完結させたい と、適任者を探した。しかしＳＦを書ける作家が見つ からず、わずかに『美しき鬼』を島田一男氏、『少年 探偵長』を横溝正史、『未来少年』を高木彬光氏が書 き継ぎ、完成させたにとどまったという。 島田一男と横溝正史が書き継いだ作品は、雑誌連載後、 海野の単著として単行本化されたが、高木彬光の「未来 少年」は全集に初めて収録された。 島田一男と高木彬光については、海野の没後、雑誌連 載中に実作者名が載ったので、どこから書き継がれたか わかるのだが、「少年探偵長」については、雑誌「東光 少年」連載の完結時まで、横溝正史の名前は載らなかっ た。 そのため、「少年探偵長」については、どこからが横 溝正史による執筆か特定できていないが、二松學舍大学 が所蔵する横溝正史の草稿から、横溝正史の書き継ぎは 雑誌連載第七回目（昭和二十四年八月号掲載）以降では ないか、という仮説が記されている（詳しくは、山口 直孝の論考「海野十三との友情『少年探偵長』・『獄門 島』から見える絆」参照）。 現在、「少年探偵長」は、『横溝正史少年小説コレク ション６ 姿なき怪人』（柏書房／二〇二一年十二月） で、海野執筆分を含む全文が読むことが可能である。 横溝正史に絡む、海野十三関連トピックをもう一つ。 昭和二十二年二月発行『探偵作家クラブ会報』第九号 の、昭和二十二年度探偵作家クラブ賞詮衡委員感想集に 寄せた短文「大真打ひとり光る」で、海野十三が次のよ うに横溝正史を称賛している。 横溝正史氏の諸作は、目についただけのものを全部 読んだ。そしてもし氏の執筆がなかったら昨年のわが 探偵小説壇は、停電に豆ランプをつけている程の寂寥 と空虚の中に沈滞していたことだろうと感じた。殊に 『本陣殺人事件』はトリックに於いて香気に於いて麗 筆に於いて、正常な時代に於いても正に最高峰を行く 作品であり、これが敗戦直後のわが出版界に捧げられ たために探偵小説壇全体が奇蹟的に生気を取り戻した その功績は、永久に記憶され称賛されるべきであると 信じる。 この短文については、歿後五十年追悼特別出版『海野 十三メモリアル・ブック』（海野十三の会・編著。先鋭 疾風社／二〇〇〇年五月）収録の「解題 単行本未収録 随筆について」で、池田憲章が次のように触れている。 戦後、海野十三は、岡山に疎開していた作家・横溝 正史と頻繁に手紙をやりとりして、探偵小説復活にか ける横溝の熱意をその文面から読み取っていた。『本 陣殺人事件』『蝶々殺人事件』と昭和二十一年に横溝 正史が連載した探偵小説の完成度を絶賛している。 また、池田憲章は、海野の短編「千早館の迷路」につ いて、横溝正史の代表作「本陣殺人事件」との類似を、 次のように指摘している。 ちなみに海野十三が『ロック』昭和二十二年八月増 刊号に発表した「千早館の迷路」（三一版『全集』11 巻に収録）は、「本陣殺人事件」を意識して、日本的 な題材を科学トリックに応用しようとした海野のチャ レンジだったと思う。 こう書かれると、気になってしようがない。さっそく 『海野十三全集 第11巻 四次元漂流』（三一書房・昭和 六十三年十二月）収録の「千早館の迷路」を読んでみた。 日本的な題材を科学トリックに応用しようとしたものに ついては、ネタバレになるので記述を避けるが、同作は、 探偵・帆村荘六（名前はシャーロック・ホームズをもじ ったとされる）登場作品でもある。百人一首の古歌「千 早ふる 神代もきかず 龍田川 からくれないに 水くぐる とは」（在原業平朝臣）を基に、千早館を探検するくだ りを読むに至り、手に汗握るのは筆者だけではないだろ う。 |
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