横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 2-18 | ○海野十三・真の処女作「しゃっくりをする蝙蝠」 |
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海野十三のデビューに関わった横溝正史自身が、小林 信彦・編『横溝正史読本』（角川書店／昭和五十一年九 月）収録の小林信彦との対談「第三部 同時代作家の回 想」の中で、海野十三の処女作として「しゃっくりをす る蝙蝠」について言及している。 小林 （略）先生はたしか海野十三の処女作っていう のをお書きになっていらっしゃいましたね。 横溝 「しゃっくりをする蝙蝠」ね。 小林 それは作品にはなってないんですか。 横溝 いや、作品で読んだのよ。あの人は電気試験所 にいたでしょう。そこの機関誌みたいなものに書いて たの。そのときにはね、佐野昌一って書いてましたよ。 あの人は延原謙さんの学校の後輩でもあるし、延原謙 さんも電気試験所にいたことがあるから、仕事の後輩 でもあるわけ。それで延原謙さんを訪ねてきたような ものでね。それで延原謙さんとぼくは向かい合わせに 住んでたの。それでぼくは紹介されたわけね。そのと きぼくは「しゃっくりをする蝙蝠」を読んだの。これ はなかなかトリッキーですからね。蝙蝠がしゃっくり するのかと思ってたら、コーモリ傘がしゃっくりをす る。そういうトリックですよ。で、この人はいけると 思ってお願いしたんですけどね。 この対談で小林が問いかけた「海野十三の処女作」に ついては、雑誌「宝石」昭和三十八年一月号掲載の「海 野十三氏の処女作」というエッセイで横溝正史が言及し ており、遡ると、海野十三追悼として発表された「しゃ っくりをする蝙蝠」（「宝石」昭和二十四年八月号）で もふれられており、後者では、「しゃっくりをする蝙蝠」 について、次のように記されている。 當時、逓信省の電氣試験所につとめてゐた海野さん が、その方面の専門雑誌へ寄稿した、二十枚くらゐの 短編であつた。この小説は、海野十三のどの短篇集に も入つてゐないらしく、極く最近、この小説の話を海 野さんにしたところ、あなたは物憶えがいゝ、私自身 そんな小説のあることを忘れてゐましたよといはれた。 横溝正史が読んだという、海野十三「しゃっくりをす る蝙蝠」は、長らく現物が確認されておらず、当然、全 集にも単行本にも収録されたことがない。 海野自身、「私の忘れもの」というアンケート回答 （「エスエス」昭和十四年六月号）で、 （略） 洋傘一本は自発的に忘れました。止め金の心 棒がなまくらになって、傘をひろげても、すぐぴしり と音がしてすぼむのです。それが吃逆をするように聞 こえました。そこで『吃逆をする蝙蝠』という小説を 書き、その洋傘は小説らしい記念事業として、電車の 中へわざと忘れてきました。 と書いており、執筆されたのは間違いないのだが。 横溝正史が読んだと紹介した、海野十三の処女作「しゃ っくりをする蝙蝠」。ますます読みたくなってきた。 |
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