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 [305]   2016/4/17
■ ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』に、『犬神家の一族』の場面が…
  ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』が、シアタークリエにて2016/4/4-25の期間、上演されている。その1幕劇中で、『犬神家の一族』の遺言状公開場面(犬神家の財産は野々宮珠世に〜青沼静馬だ)が、寸劇として演じられているのをご存じだろうか(3/27のプレビュー公演@シアター1010では、この場面は「踊る大捜査線」のパロディだったのだが…)。

ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』の原作は、『クリスマス・キャロル』『二都物語』などでもおなじみのチャールズ・ディケンズ作の同題小説。ただし、この作品は作者・ディケンズの死去により中絶となったため、結末が執筆されていない。このミュージカルでは、2幕途中で、犯人はだれかについて、当日の観客による投票がされ、その開票結果で得票数の多かったキャストが犯人役を演じるという、前代未聞の趣向で、なんと288通りの結末が用意されているとのこと。

翻訳本として、小池滋訳版『エドウィン・ドルードの謎』が創元推理文庫(1988/5)などから刊行されている。その文庫解説や江戸川乱歩のエッセイなどを読むと、本作の結末について、当時いろいろと憶測が飛び交ったことを窺い知ることができる。

文庫巻末解説/小池滋 p.440
しかしこの物語は単なる悪の心理分析に終るわけではない。正常な感覚を持つ市民の側からの悪の追求、謎の解明のテーマもあるのだから、正統的推理小説と考えることもできる。この捜査活動の中心となるのは、途中から登場する謎の人物ダチェリーであるが、彼の正体が誰であるにせよ(詳しくは次章の第2節を見よ)、もしこの作品が完成していれば、彼は私立探偵としてホームズや金田一耕助にも劣らぬ活躍と、人間的魅力を充分に発揮してくれたであろうにと、惜しまれるのである。

この文庫解説を読み、横溝正史だったらどのようにして金田一耕助を登場させ、どのように続編解決するだろうと、思いを巡らせた。というのも、横溝正史のエッセイ「思いつくまゝ」(探偵作家クラブ会報No.48,1951/5, 講談社『探偵小説五十年』1972/9収録)で、坂口安吾『不連続殺人事件』について、次のように触れているからである。 「不連続」第四回の掲載誌は、ついに手に入らなかったが、(これが入手出来てゐたら、私は金田一耕助に命じて作者の挑戦に応じさせてゐたのだが)

江戸川乱歩は、横溝正史宛書簡で、ディケンズ作品を読んでいる旨記していたり、 江戸川乱歩全集第30巻『わが夢と真実』(光文社文庫, 2005/6/20)収録の、「海外探偵小説作家と作品」(p.637-639)に、「ディケンズ」の項を設けて、『エドウィン・ドルードの謎』について記していたりしている。これらの状況から、おそらく横溝正史も、ディケンズの中絶未完作品『エドウィン・ドルードの謎』を知っていたと思われる。坂口安吾に対してそうだったように、ディケンズの中絶作について、それをぜひ実現して欲しかったところです。このような「もし」があったなら、私のようなファンは嬉しい限りなのですが、どうもそういった文献に巡り合っておらず、残念でならない。

海野十三遺作『少年探偵長』は、横溝正史が書き継ぎ完結させた作品として知られています。また、坂口安吾の『復員殺人事件』を、高木彬光が書き継ぎ完結させた例もあります。もしも横溝正史が『エドウィン・ドルードの謎』を書き継いでいたらどうなっていたか、想像するのも一興かと思う次第。はたして、このミュージカルで用意されている288通りの結末の中に、ディケンズが用意していた結末はあるのだろうか。気になるとことである。


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