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 [261]   2013/6/23
■ 横溝正史絶賛の探偵小説『黒い駱駝』完訳版(E.D.ビガーズ, 論創社)刊行
  2013/6/20付けで、論創社より『黒い駱駝』(E.D.ビガーズ, 林たみお訳, 論創海外ミステリ106)が刊行されました。実は『横溝正史研究5』(戎光祥出版, 2013/4)の巻頭カラー口絵「二松學舎大学所蔵 横溝正史旧蔵資料」で、「コノ辺ノウマサ感動ノ至リナリ」と横溝正史の原書への書き込み箇所を写真掲載された、"The BLACK CAMEL"の完訳版です。

帯には次のようにある。
  黒い駱駝に魅入られた者は誰だ!
  横溝正史絶賛の探偵小説、待望の完訳
  「コノ辺ノウマサ感動ノ至リナリ」
  チャーリー・チャンの大いなる苦悩

『横溝正史読本』(小林信彦編, 角川文庫, 2008/9復刊)に次の記述があり、個人的にはブーム当時から気になっていた作品の一つでした。
p.50
横溝 ぼくは乾君に訳してもらって『黒いらくだ』というの、のせてる。 ハリウッドの女優殺害事件から尾を引いたやつ。

『黒いらくだ』(The BLACK CAMEL)は、雑誌『新青年』昭和7年夏季増刊号・現代世界探偵小説傑作集(第13巻10号, 1932/8)に、乾信一郎の抄訳(*)があるだけで、横溝正史作品を研究する上でも、完訳版が待たれていた作品です。
 (*)乾版抄訳は、下記にも収録されています。
   ・黒白書房 世界探偵傑作叢書4 昭和10年10月
   ・『別冊宝石』45号, 世界探偵小説全集11 E.D.ビガーズ篇, 昭和30年2月

『横溝正史研究5』では、「コノ辺ノウマサ感動ノ至リナリ」のみならず座席表の書き込みも合わせて紹介されている。これら原書への書き込みは、『横溝正史読本』の『黒いらくだ』のくだりと、雑誌『新青年』(第13巻10号, 1932/8)のY記者(横溝正史)による「編集だより」の下記文章と合わせ、"The BLACK CAMEL"への横溝正史の称賛として窺い知ることができるのではなかろうか。
◇さて、この増刊であるが、先づ第一の呼物はビガーズの「黒い駱駝」である。この作者のプロットの組方の巧妙さには実際驚嘆に値するものがあるが、この小説に於いて、彼はその才能を極度に発揮している。舞台はホノルル、被害者は有名な映画女優だ。突如起こったこの女優の死をめぐって九人の嫌疑者が、アリバイを立証したかと思ふと、すぐにそれが破れ、敗れたかと思ふと更に又別のアリバイが成立する、といふ風に、息をもつがさぬ面白さでぐいぐいと読者を引張っていく。篇中、支那人探偵チャンとターネベロと称する疑問の占師との応酬には思はず手に汗を握らしむるものがある。近来の快作たることを失はない。自身をもって編集者はこの一篇を読者諸君に推薦する所以である。

ちなみに、『横溝正史研究5』で「コノ辺ノウマサ感動ノ至リナリ」と座席表の、横溝正史の原書への書き込み箇所が写真掲載された個所は、論創社版『黒い駱駝』の終盤となる「第23章 床は語る」の、p.359-360に相当する。この章のオリジナルタイトルは、写真から"FATEFUL CHAIR"だったことが分かる。物語はこの後、急展開する。

『黒い駱駝』の意味するものは、「第4章 門前の駱駝」に『死は、すべての家の門前にうずくまる、招かれざる黒い駱駝だ』っていう古い東洋の格言(p.65)と、あります。

同じく『横溝正史読本』で、横溝正史が何度も、E.D.ビガーズのチャーリー・チャン探偵もの「キーパー・オブ・ザ・キーズ」(Keeper of the Keys, 1932)について語っている。長編『仮面舞踏会』に、その人物相関と趣向を取り込んだ旨、語っている。この作品は、ブーム当時から長らく未訳状態だったが今では、 帯に「チャーリー・チャン 最後の未訳作 横溝正史も愛読した幻の作品」と銘打ち、その完訳版が、『チャーリー・チャン最後の事件』(文月なな訳, 2008/11/25, 論創社, 論創海外ミステリ82)という書名で刊行されている。
その巻末解説「アメリカ黄金時代「大衆派」本格の始祖」(浜田知明)は、ビガーズの作品リストと合わせ、一読の価値ありと思う。


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