横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 4-38 | ○金田一耕助エピソード１のあとさき |
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「本陣殺人事件」には、清――駅に降り立つまでの金 田一耕助の略歴が記されている。このほかの事件記録に 記された断片的情報をつなぎ合わせてみると、昭和六年 から十二年頃の、金田一耕助の足跡が浮き彫りになる。 頁数は、二〇二二年に金田一耕助全七十七作品が復刊さ れた、角川文庫よ５シリーズによる。 一九三一（昭和六）年 十九歳（数え） ・中学校卒業（盛岡？） 「本陣殺人事件」八〇頁 ・風間俊六と上京 「黒猫亭事件」（※１）三六一頁 ・某私立大学在籍・神田で下宿生活 「本陣殺人事件」八〇頁 ・森鴎外「即興詩人」を読む 「獄門島」四五頁 ・歌舞伎・丹頂会に参加 「幽霊座」三六頁 ・映画スター・紅葉照子のファンに 「霧の山荘」（※２）三四九頁 ・映画「モロッコ」を見る 「悪魔の手毬唄」二一三頁 一九三二（昭和七）年 二十歳（数え） ・渡米 「本陣殺人事件」八〇頁 ・アメリカ西部を放浪（皿洗いなどして） 「本陣殺人事件」八〇頁 ・ナイトクラブやキャバレーでバイト 「病院坂の首縊りの家 上」一七三頁 ・麻薬中毒になる 「本陣殺人事件」八〇頁 ・ハリウッド俳優・ジャック安永の世話に 「女の決闘」（※３）一八七頁 ・「最初の事件」（エピソード１）を解決 「本陣殺人事件」八一頁 ・久保銀蔵の学資支援を得て、カレッジ入学 「本陣殺人事件」八一頁 ・夜間、病院に勤務し、看護夫見習い 「獄門島」一〇二頁 一九三五（昭和十）年 二十三歳（数え） ・カレッジ卒業 「本陣殺人事件」八二頁 ・帰国（神戸）後、岡山の久保銀蔵の元へ 「本陣殺人事件」八二頁 ・探偵事務所開設 「本陣殺人事件」八三頁 一九三六（昭和十一）年 二十四歳（数え） ・全国を騒がせていた某重大事件を解決 「本陣殺人事件」八三頁 ・稲妻座・歌舞伎役者佐野川鶴之助失踪事件 「幽霊座」一四頁 一九三七（昭和十二）年 二十四歳（数え） ・大阪で調査をした、かなり大袈裟な事件 「本陣殺人事件」九七頁 ※１『本陣殺人事件』（角川文庫よ５―２）収録 ※２『悪魔の降誕祭』（角川文庫よ５―35）収録 ※３『支那扇の女』 （角川文庫よ５―51）収録 サンフランシスコでの「最初の事件」（エピソード１） 自体、具体的な内容は不詳で、カレッジ時代の三年間も 詳らかではない。昭和十年の帰国後から「本陣殺人事件」 までの間も、寡黙な間隙が多いと言わざるを得ない。 田中潤司「金田一探偵の近況」（「金田一耕助って誰 だ！」週刊ポスト／昭和五十一年十二月三日号）に辿り 着いた際、これこそ読んでみたいという思いに駆られた。 ところで、耕助の過去の業績の中で、その詳細が知 られていない事件がある。例えば青年時代、サンフラ ンシスコで解決した難事件もそうだ。Ｓ・Ｙ先生は、 瀬戸内海の島を舞台にした「悪霊島」事件を書述した あと、耕助に詳しい話を聞いてそれをまとめるつもり らしい。 禁止法時代末期のサンフランシスコで、麻薬におぼ れていた若き金田一耕助が謎を解くのはどんな事件か？ それだけでも夢がおどるが、耕助はその事件でなんと チャーリー・張と張りあったのだそうだ。記録完成が 待ち遠しい。 チャーリー・チャン（張）、つまりＥ・Ｄ・ビガーズ が創造した探偵との夢の競演を、聞き書きの形だが仄め かしている。ホノルル警察警部の彼は、サンフランシス コへ出張したこともあり、登場人物として申し分ない。 サンフランシスコでの、磯川・等々力警部的な位置づけ だったのだろうか。 横溝正史は、「本陣殺人事件」以前の金田一耕助事件 記録を記していない。最後の事件「病院坂の首縊りの家」 を書き記しているのだから、こういった記事を見つける と、つい最初の事件の原稿がどこかにあるのではと、思 いを巡らせてしまう。 別執筆者によってではあるが、サンフランシスコ放浪 時代前後のエピソードは発表されている。果たして、横 溝正史の頭の抽斗には、いかなるエピソード１があった のだろうか。想像するのも、また楽しからずや。 |
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