横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 4-36 | ○「悪霊島」一九六四年の取材ノート |
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『横溝正史研究 創刊号』（戎光祥出版、二〇〇九年四 月）掲載の「連載 二松学舎大学所蔵 横溝正史旧蔵資料 紹介 第１回『悪霊島』取材ノート」（紹介・解説 山口 直孝）に、目が釘付けになった。 さらに、戎光祥出版『横溝正史探偵小説選』出版記念 報告会（二〇〇八年八月三十一日）での、二松學舍大 学・山口直孝先生の講演レジュメ「横溝正史旧蔵資料受 け入れの経過と概要」に、旧蔵資料目録の概要が紹介さ れていました。その中で目がもう一度釘付けになった項 目があった。それは……。 ・第二次 14、『悪霊島』取材ノート １９６４年 長編「仮面舞踏会」のように、横溝正史が山村正夫に 宛てた書簡の内容が「創作ノート」の体裁を成していた ものはあったようだが、創作に際し、緻密なメモやノー トは作らず、頭の中の抽斗にしまってある構想を、原稿 用紙に直接作品として書くのが、横溝正史の執筆スタイ ル。横溝正史最後の長編『悪霊島』に、取材ノートがあ ったということと、その年代が「１９６４年」だという、 二つの設問に、書誌調査への思いが再燃してきた。 「悪霊島」について、取材資料が存在することは、以 下の文献から判明している。 ・今秀己「慈父と作家魂と」（水谷準・編著『横溝正史 追憶集』昭和五十七年十二月） 〈病院坂〉は上・下編完結で、すぐにも「悪霊島」 の連載が始まるように述べたのは、〈病院坂〉の前に、 「悪霊島」の舞台となる瀬戸内海に計二回約一週間、 先生の代わりに取材に行っていたからだ。先生は、健 康状態もさることながら、乗物恐怖症で、取材旅行は 全く苦手だったのである。私は、先生の眼となり耳と なり足となって、興信所員か刑事になったような気分 で綿密に取材した。写真も約七百枚撮った。コースは、 鷲羽山で有名な下津井から、点在する小島を経て、対 岸の香川県坂出、坂出から多度津へ海に沿って移動し、 多度津からまた小島群を経由して対岸の岡山県笠岡に 至った。笠岡の近くの小島の一つが『獄門島』の舞台 となっている。風俗・習慣・伝説・人口・地形などを 調べたわけだが、「悪霊島」の舞台は、かつて樽前船 などで賑わった下津井港近くの、櫃石島近辺の島に設 定された。「悪霊島」は昭和五十四年新年号から五十 六年五月号まで計十六回の連載で、五十六年三月号だ け一回休載となった。 「病院坂の首縊りの家」は、雑誌「野性時代」昭和五 十年十二月号から、連載開始されている。この取材は、 その「病院坂の首縊りの家」連載前に、角川書店の今氏 が横溝正史に代わって行ったものであり、一九七五年こ ろのことと推定できる。 そうすると、二松學舍大学二次受入分の「１９６４ 年」と合致しない。二松學舍大学の『悪霊島』取材ノー トと、角川書店・今氏の取材資料とは、まったく別物と 考えてよさそうである。 角川文庫『悪霊島 上』（緑三〇四―67、昭和五十六 年五月）の巻末解説の終わりに、十年余にわたって練ら れた構想が、とある。横溝正史は、昭和三十九年ころに はすでに、「悪霊島」を構想していたことになる。した がって、昭和三十九年ころに、「悪霊島」に関する、取 材・創作ノート的なものが存在していても、あながち不 自然ではないと考える次第。 今秀己は、昭和三十九年の「悪霊島」取材ノートをも とに、横溝正史から依頼を受け、現地取材を行ったとも 考えられる。執筆手法を窺い知る手掛かりの一つとなる であろう。昭和三十九年の「悪霊島」取材ノートの内容 が詳らかになることを、祈念する次第。現地取材をした のか、したのであれば誰が、など、興味は尽きない。 |
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