横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 4-30 | ○「七つの仮面」は「聖女の首」プラス１ |
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＊本項では、横溝正史「七つの仮面」の結末を明かし ています。 金田一耕助シリーズの「七つの仮面」には、「聖女の 首」という原型作品が存在する旨、角川文庫『七つの仮 面』（緑三〇四―66／昭和五十四年八月）の解説（中島 河太郎）に記されている。 「七つの仮面」には、原形があって「聖女の首」と して発表された。原形では娼婦が首をくくって死んだ 前日に物語った内容になっていて、金田一も、このヒ ロインに愛憎を籠めたりん子も登場していない。女学 生時代聖女と呼ばれていた美沙が、銀座の喫茶店で働 くようになったとき、彫刻家のモデルとなってできた 「聖女の首」が、大変な評判となり、 三人の熱烈な求 婚者が現れる。彼女がそのうちの一人を選びかねてい るうち、三人とも言いあわせたように遠ざかってしま う。その背後に彫刻家のある意図を感じとった彼女の 引き起こした悲劇に移って、「聖女」にかくされてい た本性と運命にあらがえぬ姿が描かれている。（以下 略） しかしながら、横溝正史自身は、エッセイ「四半世紀 ゆめうつつ」（初出は「回想の新生」昭和四十八年九月 号／『探偵小説昔話』収録）で記しているように、「聖 女の首」執筆自体を失念していたようである。 昭和二十二年二月号の「東京」という雑誌に「聖女 の首」という私の短篇が掲載されているそうだが、正 直にいって私はこういう短篇を書いたことを全く忘れ ていた。こんど「『新生』復刻編集委員会」から、当 時の雑誌のコピーを送られて、詠みかえしてみるまで、 この小説はぜんせん私の記憶の外にはみ出していた。 「聖女の首」は、雑誌「東京」に掲載されたのだが、 中島河太郎版横溝正史作品リストならびに文庫解説中 （引用では省略）さらに、横溝正史のエッセイ「四半世 紀ゆめうつつ」の昭和二十二年二月の記載は、 昭和二十 三年二月の誤植である。年代順作品リストを作成してい た際、「桜日記・第二部（昭和二十二年）」（「幻影城」 一九七六年五月増刊『横溝正史の世界』収録）十月十三 日記載の、「「聖女の首」五十二枚〈半ペラ〉東京。」 との齟齬に、悩まされた記憶がある。日記の内容から、 雑誌掲載はそれ以降となる。 島崎博版ならび浜田知明版（「野性時代」一九九四年 三月号掲載の「完全年譜 金田一耕助の生涯」）は、共に 昭和二十三年二月に記載。ということで、「東京」昭和 二十三年二月号を、図書館でチェックしたところ、「聖 女の首」が掲載されていて安堵したことを思い出す。 角川文庫『七つの仮面』巻末解説の記載どおり、「聖 女の首」は「七つの仮面」と殺人の方法が異なり、山内 りん子や金田一も出てこないが、「七つの仮面」の原型 作品であることは確かで、「六つの仮面」ともいえる作 品である。改稿にあたって、仮面が一つ増えている。 「聖女の首」に記載された「六つの仮面」は、〈聖女 の首〉、〈接吻する聖女〉、〈抱擁する聖女〉、〈恍惚 する聖女〉、〈血塗られた聖女〉、〈首をくゝる聖女〉 である。 「七つの仮面」では、〈恍惚する聖女〉が〈法悦する 聖女〉、〈首をくゝる聖女〉が〈縊れたる聖女〉と、字 句の変更はあるが、明らかにもう一つ〈〜聖女〉という 仮面が増えている。 「聖女の首」を初収録した単行本『横溝正史探偵小説 コレクション３ 聖女の首』（出版芸術社／二〇〇四年 十一月）は、現在品切れ。絶版状態なのは残念である。 一つ増えた仮面は〈悪企みする聖女〉である。 |
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