横溝正史シソーラス(パイロット版) - 温故知新編 -
| 3-34 | コラム■「夜読むべからず」は翻案だった！ |
| 3-34 |
会津信吾、藤元直樹・編『怪樹の腕 〈ウィアード･テ ールズ〉戦前邦訳傑作選』（東京創元社／二〇一三年二 月）に、横溝正史の「夜読むべからず」（初出は「講談 雑誌」昭和三年八月号）は翻案作品の旨、記述がある。 原作は、Harold Thompson Rich の短編The Purple Cincture（“Weird Tales” ,1925/8）とのこと。 同書では、The Purple Cincture の邦訳・翻案につい て、戦前に発表された三作品が紹介されている。 邦訳発表年代順に、「夜読むべからず」（横溝正史・ 訳）、「復讐記」（訳者不明。「新青年」昭和五年十月）、 「片手片足の無い骸骨」（大関花子・訳。先進社『世界 怪談叢書２ 怪談 英米篇』［昭和六年四月］）となり、 『怪樹の腕』には「片手片足の無い骸骨」が採録された。 「怪奇小説 夜読むべからず」の掲載誌五ページ分と併わ せ、訳者不明の「復讐記」も四ページ分の図版が収録さ れいる。解説には、横溝正史に関する記述がある。 横溝正史「夜読むべからず」（〈講談雑誌〉昭和３年 ８月号・松野一夫画） 舞台をアフリカに移した抄翻案。原作にない兄妹オ チがつけられ、さらに陰惨度がアップ。大関訳とよみ くらべてみると、翻案作家としての横溝正史のスキル の高さが実感できる。 同書収録の藤本直樹「怪奇な話ウィアード･テール ズ」にも、横溝正史に関する記述がある。 「四次元の世界」が発表された同じ（１９２８年） ８月、博文館の〈講談雑誌〉は夏場に向けて怪談話を 集めていたが、ここに横溝正史が寄せたのは、タイト ルもそのものずばりの「夜読むべからず」であった。 翻案であることは明示されていないが、これはリッチ 作品【一】（15=“The Purple Cincture”のこと）を訳 したものである。２０００年『喘ぎ泣く死美人』（角 川書店）で、初めて単行本に収められたが、同書の解 説では原作の存在については言及されていない。 こうなると、同じ「講談雑誌」の昭和四年七月増刊号 発表された「喘ぎ泣く死美人」も、外国を舞台としてい ることから、翻案・翻訳作品である可能性も高まってく る。洋雑誌研究者の、さらなる調査が待たれる。 |
｜総目次｜各部目次｜Previous｜Now here｜Next｜
 横溝ペディアへ |
 総目次へ |
 ページの先頭へ |