「新青年」(昭和9年4月号,Vol.15-No.5)に、江戸川乱歩が『「悪霊」についてお詫び』
という休載の言葉が掲載されている。『貼雑年譜』(講談社江戸川乱歩推理文庫特別補巻, 1989/7)には、 上記の切抜きに合わせて「水谷君ノ来訪ヲ求メ、コノ原稿ヲサシ出シテ頭ヲ下ゲタノデアル」とコメントが記されている。 さらに「新青年」同号別ページのマイクロフォンというコラム欄に、横溝正史が『江戸川乱歩へ』と題した 短文を書いている。 |
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その横溝正史の短文は以下の通り。 復活以後の江戸川乱歩こそ悲劇のほかの何者でもない。 僕は一昨年彼が休養を宣言する迄に書いたあらゆる作品に対して 多大の同感と尊敬とを持っているものである。彼が唯大向うを 覘って書いた「黄金仮面」や「魔術師」のような作品に対してすら、 僕は又それはそれとして立派なものだと思っていた。 ところが二年間の休養を経て書き出した近頃の作品は 一体なんというざまだ。何んのために二年間も休養していたのだといいたくなる。 全集で今迄の仕事のしめくくりをつけたのを機会に、ゆっくり休養をとって、 もっと自由に良心的な仕事に精進するのかと思ったら、反対に 一先ず仕事のしめくくりはついたから、後はどんな仕事をしても よかろうというのじゃお話にならない。それも、図々しく肚をきめて 世間をのんでかかっての仕事なら、それは又それで見直すという ものだが、中風病みのような無気力で、今月も来月も休載というんじゃ 見ている方で切なくなる。 江戸川乱歩はよろしく、今書きかけている四つの長篇を、 全部あやまってもう一度休養に入るべきだ。それで食うに困るなら 昔の生活にかえるがいい。それより他に救われる途はないと思う。 |
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『貼雑年譜』ではこの切抜きに対して、乱歩が
「私ノオ詫ビト同ジ号ニコノ横溝君ノ悪罵ヲ載セルトハ」とコメントしている。 |
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「新青年」に横溝正史の文章を見つけ読んだ時、「泣いて馬謖を斬る」に近いものを感じた。
しかし諸葛孔明は、基本に忠実過ぎた馬謖を斬って捨てたわけであり、この諺とは
違うということを、中村英夫「銀と金」は教えてくれた。 『乱歩文献データブック』(名張市立図書館,1997/3)に、横溝正史関連の文献データを 探していて、中村英夫「銀と金」(江戸川乱歩全集6『押し絵と旅する男』,講談社,1979/4)に 辿りつき、チェックした資料です。 乱歩と正史の盟友関係を双子座の２恒星の内，乱歩を高温星のカストール、 正史を低温星のポルックスに例え、さながらこの文章は金星ポルックスが銀星カストールを 真摯に諭したものと説明している。 横溝正史が喀血後療養中に書かれたこの文章には、鬼気迫るものを感じる。だからこそ、 乱歩の不甲斐なさに地団駄踏んだのではないでしょうか。 |
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乱歩と正史の盟友関係を記した文献をご存じの方、 ぜひご一報ください。 |
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