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「だれだい、そこにいるのは」 「へい、わしで…」 薄暗い大道具の陰から言下にそう言って、うっそりと頭をもたげたのは、 道具方か何かと見えて、極東サーカスというマーク入りの法被を着た男だった。 不思議なことにはこの男、顔を見るとまだ四十前後の壮者のように見えるのに、頭を見ると六十以上である。 見事な銀色の白髪が、肩のあたりまで垂れているのだった。 「なんだ。六造じゃねえか。(略)」 |
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角川文庫緑304-35『悪魔の設計図』収録, 「石膏美人」p.158 |
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この 「石膏美人」での、極東サーカスの道具方・六造が、実は由利先生で あることが、後になって分かる。これが由利先生の初登場シーン。ちょっと意外。 由利先生の第一作は、「憑かれた女」「白蝋変化」「獣人」と諸説ある。 横溝正史本人が下記の通り、「石膏美人」を「由利、三津木物のこれが第一作」 と記しています。 『黒猫亭事件』(自由出版,1948,「石膏美人」収録)「あとがき」の最後 尚附録としてつけた『石膏美人』は昔『講談倶楽部』に連載した旧作だが、 自分の別のシリーズであるところの由利、三津木物のこれが第一作で、 そういう意味で自分はこの小説も嫌いではない。 ということで、当HPの「由利・三津木事件簿」では、「石膏美人」を 由利先生最初の事件(第一作)とし、最初の文章を紹介させていただきました。 でもなぜ、極東サーカスの道具方だったのか、語られることはありませんでした。 残念です。この「石膏美人」で、由利先生と三津木俊助が三年ぶりに再会している (p.196-197)。とうことは「石膏美人」の前の事件は、由利麟太郎警視庁在職時代の 事件ということになり、執筆されませんでした。合わせて、残念。 ちなみに、「石膏美人」の初出は「講談倶楽部」(1936/5増刊-6)で、 原題「妖魂」でした。「石膏美人」=「妖魂」ですので、ご注意のほどを。 |
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