創作予定題・タイトルにこだわる横溝正史
創作予定題
- タイトルにこだわる横溝正史 -

角川書店から『双生児は囁く』『喘ぎ泣く死美人』と題した、 横溝正史・未収録作品集が刊行されたことは記憶に新しい。 これら未収録作品集の刊行は偉業であり嬉しいが、雑誌や書籍になった作品だけが、 横溝正史の作家活動のすべてではないのも事実である。

晩年の「女の墓を洗え」「千社札殺人事件」に代表される未執筆作品、 構想のみとなった作品、創作予定題や未発表作品原稿やメモなど、 横溝正史の創作活動の一端を垣間見たいと思うのは、私だけではないはずである。

昭和21,22年の横溝正史の日記を紐解くと、 創作予定題が数多く記されていることに気づく。横溝正史が、作品タイトルに こだわりを持っていたことを、窺い知ることができる。 題だけのものも多いが…。

『新版横溝正史全集18 探偵小説昔話』,1975/7
「昭和21年:桜日記」収録
  『幻影城増刊 横溝正史の世界』,1976/5
「昭和22年:続桜日記」収録

1946/3/11
 題名思いつくまま心憶えに。
  ◎明治の殺人
  ◎粘土の顔
  ◎花粉
  ◎天窓
  ◎萎んだ花束
  ◎薔薇より薊へ
  ◎月琴を弾く女

1946/3/12
  ◎質屋殺し事件(N横町の殺人)
  ◎幽霊屋敷で巡業の役者が殺される話
  ◎盲いた猫。人形の家の殺人

1946/3/15
  ◎骸骨を身代りに使う話(骸骨の肉附)
  ◎月琴島-首吊りの写真-第二番目の顔のない死体
    -ある女の記録(コレガトリック)
  ◎化物屋敷(捕物帳の題)

1946/3/16
  ◎顔のない屍体

1946/3/20
  ◎N横町の殺人
  ◎蝙蝠
  ◎玩具店の殺人
 寝ていて、右(上)のような題を考へる。

1946/10/11
  ◎刺青
  ◎粘土の顔
  ◎消すな蝋燭
  ◎おもちゃ屋の殺人
  ◎戸棚の中の骸骨
  ◎百面相芸人
  ◎薔薇より薊へ

1947/6/25
 題名を何んとなく考へてみる。
  「黒猫」
  「萎んだ花束」
  「粘土の顔」
  「殺人鬼」

1947/6/26
  黒猫亭事件
  簪
  鬘
 と、題だけ考へる。

創作予定題のうち、実際に書かれたものもいくつかある。
「明治の殺人」「花粉」「薔薇より薊へ」「化物屋敷」「玩具店の殺人」 「消すな蝋燭」「百面相芸人」「黒猫・黒猫亭事件」「殺人鬼」 などが、そうである。

それにしても、「萎んだ花束」「粘土の顔」は何度も出てくるのですが、 そういう題名の作品はないようです…。

「いざ、世田谷−または、花瓶男の棲む館」(塚田よしと,創元推理倶楽部秋田分科会『新版 横溝正史の世界』収録,1999/12)によれば、 「戸棚の中の骸骨」は世田谷文学館に直筆原稿が保管されていると聞く。 また「石膏魔」「花瓶男」と題した原稿もあるという。

乱歩の『貼雑年譜』よろしく、原稿を写真に撮りそのまま書籍として刊行できないものか。 横溝正史の直筆でしかも未発表原稿、読者にとって垂涎の一冊になるのではなかろうか。

横溝正史の「創作予定題」をご存知の方、
ぜひご一報ください。



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